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Journal

Kamaro’an

  • 2024.12.19

「kacawが今から鞄を染めていくよ!」

台東、花蓮にあるKamaro’anの工房でイマイが私を呼ぶ。
工房の裏口へ出ると、スタッフkacawが大きな鍋に真っ白なKamaro’anの鞄を入れていくところだった。
鍋には朱色の染料がぐつぐつと煮えて、白い湯気はもくもくと雨の日の空気に吸い込まれていく。
白い鞄たちは湯気に紛れながら少しずつ朱色に染まっていく。鍋の中を覗き込んでも、濃い染料と湯気でなかなか簡単には見えないのだけれど。
kacawは鍋の中をかき混ぜながら説明してくれる。

「これは薯榔という芋から染料を作ってるんだ。中身が赤褐色なのが特徴的だから染め物にも適用されてるんだよ」

見た目は大きな菊芋みたい。ごまとかで和えたら美味しそうだな。そんなことを考えていたら隣にいたイマイが笑う。

「薯榔は食用じゃないの。でも花蓮の地では昔から染め物に使われていて、みんなの暮らしに馴染みのあるものなのよ」

漁業用の網を染められるのにも使われていたとか。
今回の染料で使う薯榔は6kgほど。
どのように色を作り出すのだろうか。
そんなことを想像する。

 

Kamaro’anは台北と花蓮の二拠点で制作を行なっている。
中でも染料は花蓮のみで行っているため、花蓮の土地の自然のエネルギーが直接つくるものに染み込んでいる気がする。
工房の中には他の染料の鍋もたくさん並んでいた。
花蓮で昔から親しまれてきた檳榔と呼ばれる実もKamaro’anの染めには欠かせない。

「もうそろそろ良いかな」とkacawは鍋からひとつずつ鞄を掬い出す。色鮮やかな朱色が雨の空気にしっとり馴染んでいるみたいで。
ひとつひとつの鞄たちが上品な鮮やかさを纏っていた。

あますことのない朱色に心が惹きつけられた。

けれど余韻に浸る間もなく。
kacawは色落ち防止のために手早く媒染の作業にうつる。

薯榔の色が導いた美しい色と手を繋ぐように、しっかりしっかり媒染液の中でかき混ぜる。
kacawはとても楽しそうだった。

「ここの工房には週に数日しかいない。他の日は台湾の手仕事やものづくりの様子を記事にしたりしてるから、こうして染色できる時間は自分の心をわくわくさせてくれるんだ」

イマイと違って多くのことは話さなかったけど、
kacawがKamaro’anの制作に携わっている喜びを真っ直ぐ感じることができた。

 

媒染後は鞄をひとつひとつ干して丁寧に乾かしていく。
朱色が仲良く並んでいる。
おそらくあの雨空のもとでは、最も恋がはじまるような鮮やかな色だったと思う。

その色は遥か昔からこの地球とはどうやら両想いだったようで、
どちらかがどちからをぎゅっと抱き寄せるように、
会えましたね、と和やかに再会を果たしているみたいだった。

いつかの大切な日に🌱

comment-author
Ayaka Onishi

大西文香 1994年兵庫県生まれ。写真家。



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